異世界サイコロ旅行 第三投

9月6日


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天使との邂逅


 まさに一閃。

 私を捕まえようと伸びたオークの手は虚空を掴んで閃光に刎ね飛ばされた。

 オークの鮮赤が迸り、私とスケッチブックを汚す。

「グガァオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!!!」

 至近距離での咆哮。

 気が遠くなりそう……。

 濃厚な血の匂いが充満して吐き気がする。

 手を切り飛ばされたオークは苦痛に顔を歪め、一歩後ずさる。

「…………わず、………………………其は」

 遠くから呪文が響く。

 その隙にもう一匹が泥を蹴り上げながら雄叫びを上げ、私に突っ込んでくる。 

「グゥオオ」

「真命捧ぐ聖域!!!!」(サンクチュアリ!)

 間一髪。私を中心に半球状の光が湧きあがり、世界から音が消えた。

 突っ込む勢いそのままに光に弾かれ、弧を描き彼方へ吹き飛んでいく。

 光纏う剣を下段に構え疾走する白い影が、いつの間にか片手のオークを捉える。

 すれ違い様の振り抜き。

 片脚の腱が切れ躰が後ろへ傾ぐ。

 背中が地に落ちる前に一転、頸に剣を当てる。

 斃れるオークは剣に自から頸を沈めて行く。

 噴き出す鮮赤。

 片手を失い地に背中をつけ脈動するオーク。

 なりふり構わず走り去るオーク。

 次第に動きが弱くなるオーク。

 光纏う剣を油断なく構え肩で激しく呼吸を繰り返している。

 やがて完全に動かくなったオークの体と、辺りを塗りつぶした鮮赤が淡く発光しだし、徐々にその存在を薄く世界に拡散させていった。

 刹那の攻防が残したのは、陽光に輝く宝石のような一粒。

 辺りを見回し、やっと構えを解いて剣を手から離す。

 瞬間光となって消える剣。

 世界に音が戻ってくる。

 よく見れば私よりも背が小さくて、これまた小さい可愛い顔をした女の娘。

 背まで伸びた逆光に映えるシルクのような銀髪が、高原の風に揺れ小さな羽に見えた。まるで天使が舞い降りたみたい。

 現実離れしすぎていて、まるで無声映画を見ていたかのような錯覚に陥る。

「んっ、……はぁ、遅くなって……、ごめんなさい。お怪我は……、ありませんか?」

 手が届くほどの距離まで来て膝をつき、蒼く透き通った目を合わせてくれる。

 心配と申し訳なさと労わりと、そんな感情を顔一杯載せて途切れ途切れだけど、声をかけてくれた。

 気が付けば、返事をする代わりに震える体を無理やり動かしてしがみついてたよ。まだ肩で息してて、呼吸が速くて、……人の温りを感じる。

 怖かった。泣いて、絶望した。喰われるかと、本当に死ぬかと思った。

 私も震えがなかなか収まらない。耳の奥がまだ痛い。けど、私、生きているよ!

「あっ、あのっ! ちか、いっ…………」

 ……、何か言ってるけど構わずそのままホールド。ガチホだっ。だって今離れたら、絶対に私ヒドイ顔してるもの!

「………………、もう、大丈夫ですよ」

 とっても澄んだ鈴の音のような声で優しく抱き返してくれた。

 どうしてくれるのよ、ヒドイ顔がよけい復旧不可能になるじゃない……。

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